内股日記

遠い北国での生活つれづれ

甘い蜜の部屋 モイラの匂いはhauschkaのにおい

森茉莉が還暦を過ぎてから書き始めたという、多分に自己を投影していると思われる、恐ろしく魅力的な美少女の話。

 

三部に分かれて居て、分厚い長編だが、繰り返しの描写が多い。例えば、主人公モイラの体から発する、嗅ぐ者を狂わせる、植物性の香りについて。人間の皮膚から植物性の、百合の茎をポキっと折った後の様な匂いがするとはどういうことだろう、モイラが体を拭く水に入っているオオドゥコロニュの香りなんだろうか?と少し疑問に思いながらも、このファムファタルは体臭まで官能的なんだな、と彼女を形作る魅力の一つとして捉えて居た。

もう三度は読み返した、お気に入りの作品である。

先日、思いがけなくモイラの匂いに出会った。Dr.Hauschkaの洗顔ミルクの香りである。まさに純植物性、という感じで、嗅ぐと気が遠くなるような、遠い遠い記憶の中の何かを思い出しそうで思い出せない、そんな何とも言えない良い香りである。わたしの中のモイラのイメージスメルは、Dr.Hauschkaで決まり!

 

所謂「父の娘」の作品は、これしか読んだことがないが、最強だな、、という印象。産まれて直ぐに母親を亡くしたモイラは、父、林作の創造物である。林作は謂わばモイラの神である、モイラを愛して止まない、神である。社会的地位のある父親に全てを肯定されて美しく育っていくモイラは、内省することなど先ず無く、当たり前のように自信をもって、ふてぶてしい振る舞いをする。幼い頃から、神である林作によって、「モイラは上等」と刷り込まれてきたからである。モイラの性格や林作との関係は、森茉莉本人のものとそう変わらないだろう。

 

わたしの父は相当に厳しく、褒められた記憶として思い出せるものは数えるぐらいしか無い。であるから、モイラの性格や、エッセイ等から垣間見える森茉莉の性格は、わたしのそれとは真逆で、とても魅力的に映る。恋愛の面に於いても、わたしが相手に父性の様なものを求める傾向にあるのは、10代までの父親との関係が大きく関係していると思う。森茉莉はこうでは無かっただろう、幼いころから神である鷗外に赦され、愛されて居たのだから。

 

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実家の猫。

モイラは猫っぽい。

猫の蠱惑的な感じはモイラっぽい!